最近読んだ本の紹介
2025/10/8
柚木麻子さんの小説『BUTTER』は、実在の事件をモチーフにしながら
「食」と「女性の生き方」を重ねて描いた力強い作品です。
主人公の記者・町田里佳は、男たちを魅了しては結婚詐欺に関わった
梶井真奈子という女性に取材を重ねていきます。真奈子は若くもなく、
華やかな美貌もないのに、なぜ多くの男性から崇拝されるように
慕われたのか。その鍵が「バターをたっぷり使った料理」でした。
読み進めるうちに、バター料理は単なる食事ではなく、「生きる力」や
「女性の自己表現」の象徴として描かれていることに気づきます。
カロリーを気にして食を抑える里佳と、惜しみなくバターを使って
男たちをも虜にした真奈子。二人の対比は、現代女性が抱える
「自分らしさ」と「社会の理想像」との葛藤を鮮やかに浮かび
上がらせていました。
私が特に心を打たれたのは、真奈子をただの「詐欺師」としてではなく、
一人の女性として理解しようとする里佳の姿勢です。
初めは嫌悪感しかなかったのに、料理を通じて心を動かされ、
自分の価値観さえ揺さぶられていく。人を理解することの難しさと可能性を、
この小説は丁寧に示していると思いました。
