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2026/10/28

奥田英朗の『普天を我が手に』三部作は、昭和という激動の時代を
生きた人々の姿を壮大なスケールで描いた歴史小説である。
検察、任侠、マスコミ、芸能という異なる世界に身を置く登場人物たちと、
その子ども世代の歩みを通して、昭和史そのものを追体験できる作品だった。

 

第一部では、陸軍省の竹田耕三、侠客の矢野辰一、編集者の森村タキ、
興行師の五十嵐譲二らが、それぞれの立場から戦前・戦中の時代を
生き抜く姿が描かれる。政治や裏社会、婦人活動、興業といった
異なる世界が戦争という大きな流れの中で結びつき、
どの人物も困難な状況の中で前向きに生きようとする姿が印象的だった。
満州をはじめとする当時の活気ある空気も描かれ、歴史小説で
ありながら希望や活力を感じる作品だった。

 

第二部では太平洋戦争と戦後の混乱が中心となる。竹田志郎は
日米双方の捕虜収容所を経験し、戦争が人間性を失わせる
恐ろしさを目の当たりにする。矢野四郎の物語では特攻兵器「回天」が
描かれ、時代が若者に強いた過酷な運命を考えさせられた。
一方で森村ノラや五十嵐満の姿からは、戦争の中でも生活を守り、
生き続けようとする人間の強さが伝わってきた。

 

第三部では、検事となった竹田志郎、政治家として活躍する
矢野四郎、記者の森村ノラ、芸能界で影響力を持つ五十嵐満らが、
高度経済成長期から昭和後期を生きる。政治、メディア、芸能、
権力の複雑な関係が描かれ、登場人物たちは成功だけでなく
失敗や葛藤も抱えながら時代と向き合う。
彼らの姿は昭和そのものの縮図のようであり、歴史書では
伝わらない時代の空気を感じることができた。

 

三部作全体を通して感じたのは、どの時代にも懸命に生きる
人々の力強さである。長編ながら登場人物たちは生き生きと
しており、昭和史を学ぶだけでなく、人が時代の変化と
どう向き合うかを考えさせられる作品だった。
読み終えた後には大きな達成感とともに、昭和という時代を
深く堪能した満足感が残った。